事業成果物名

2010年度 準輻輳海域における船舶航行安全確保に関する調査研究

団体名

事業成果物概要

平成21年度の調査研究では、船舶交通が集中し海難が多発する東京湾、伊勢湾および大阪湾を結ぶ太平洋沿岸海域(準輻輳海域)と北海道南岸・九州北岸海域を対象に、交通海難の発生状況、要因分析、船舶通航状況等を解析するとともに、AIS(船舶自動識別装置)の活用状況の調査、船舶の動静監視と情報提供、船舶交通の整流化の検討を行った。
平成22年度の調査研究では、過年度の検討結果を踏まえ、AISを活用して新たな対策を講ずべき準輻輳海域を対象に、船舶交通流等の航行環境について精緻に分析するとともに、自主分離通航帯の見直しや仮想航路標識の活用、AISを活用した船舶動静監視や情報提供、進路誘導等による交通整流化等について、総合的な調査研究を行って準輻輳海域における航行安全対策の提言を取り纏めた。

準輻輳海域における安全対策の提言
(1)AISの活用
①海上交通センターでレーダによる航行船舶の動静監視を行っているが、このエリア外でも、AIS搭載船舶に対しては、AIS陸上局から乗揚防止等を図るための動静監視や情報提供を行うことが可能であり、AISの普及とともに動静監視対象海域が拡大された場合には安全性の向上が期待される。
②日本では、500GT以上の船舶に搭載義務が課せられているが、海外ではSOLAS条約で定める基準より搭載義務船舶の範囲を拡大する傾向がみられる。こうした中、搭載義務のない船舶でもAISを活用することによる安全性向上への寄与が認識され、我が国でも搭載船舶が徐々に増加している。一方で、普及促進にはAISの有効性等の周知とともに利用者のニーズに合致した機能改善等が望まれる。
③AIS普及促進の阻害要因の一つとして機器の価格が高額であることがあげられ、低廉化が期待される。普及促進の方策として、国による補助金や保険料削減等のインセンティブの導入が考えられ、また、簡易型AISは価格が安価であり、その普及が期待される。
④AIS搭載船舶が増加すれば、電波混信やAISを経由する情報過多が表示画面を占有する等の問題の発生が懸念されることから、あらかじめ対策を検討しておく必要がある。

(2)船舶の動静監視と情報提供
①準輻輳海域における衝突海難は、商船対漁船がその半数以上を占めており、商船の航行エリアと漁船の操業エリアが重複する海域では、衝突のリスクが飛躍的に高まることから、沿岸海域における操業漁船に関する情報提供が望まれている。
②AISによる動静監視では、対象船がAIS搭載船舶に限定されることから、AISを搭載していない漁船の動静把握には、準輻輳海域でのレーダによる監視エリアの設定が必要になるが、その設定に当たっては、湾内等の限定された海域とは異なり、沿岸海域は気象・海象、レーダ性能等による制限を受けることを考慮しなければならない。
③準輻輳海域では、AISのメッセージ機能があまり利用されておらず、今後は、気象・海象情報、工事情報、水路情報等の他、海域内のすべての船舶に同一情報を送信するような活用方法を考慮することが望まれる。
④海上交通センター等による情報提供では、AISメッセージとともにVHF等の併用が効果的である。
⑤漁船の操業情報については、リアルタイム情報として取得するだけではなく、水路誌等の刊行物やパンフレット等により、対象海域の漁船操業活動の特徴をまとめた一般情報として提供する方法が考えられる。

(3)船舶交通の整流化
船舶同士の衝突海難等が多い海域においては、船舶同士の衝突リスクを減少させる方法として船舶交通の整流化が考えられる。
このため、日本船長協会が推奨している「自主分離通航帯」をIMO(国際海事機関)で採択し、法的拘束力を持たせ、船舶交通を整流化することが考えられるが、沿岸通航帯を設置する場合には、長さ20m以上の船舶がすべて対象となり、小型船まで沖合い航行を課すことになる等の問題がある。
しかし、調査結果を見ると、比較的船型の小さな船舶は沿岸域を航行する状況であり、すべての船舶を対象にしたIMOの分離通航方式の採用は航行実態にそぐわない。そこでIMOの採択によらず、沿岸通航帯の利用制限や小型船の沖合航行等の問題点を解消するため、一定の船舶のみを対象とした通航路を設定することも考えられる。
また、分離通航帯を設定する場合、通航路の側端や推薦航路を設定する場合の中央を表示したり、主要な変針点を示す場合に、「仮想航路標識」の機能を活用することが考えられる。日本航路標識協会が検討した「仮想航路標識」の活用に関する実証実験結果により、その有効性も確認されている。なお、「仮想航路標識」の活用にあたっては、IMOでの国際ルール化が必要である。

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報告書

事業成果物

事業成果物名

準輻輳海域における航行安全確保に関する調査報告書

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